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第13章 笑ひ

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最初の段落は、

微笑は笑ひの完成だ。

といふ文で始まります。微笑みは何の抵抗も不安も持たないものなので、子供は母親に向かひ、母親が子供にさうするよりも上手に微笑むのだ、といふ指摘や、「疑心が疑心を呼ぶ樣に、微笑は微笑を目覺」めさせるので、

幸福な人が、凡てが自分にほゝゑみ掛けたと言ふのも尤もな事だ。

といふ説明など、アランの人間を見る眼が光つてゐる所ではないでせうか。

この段落でアランは、微笑は「己の情熱に對する或は他人の情熱に對する武器として賢者が」取りあげるものであり、最も深い意味での精神が、微笑みの裡にはあるとも述べてゐます。

第二段落では、言はば笑ひの生理学が分析され、驚きが緊張を、安心が弛緩を呼ぶ、その繰り返しが笑ひなので、笑ひで肩を揺さぶるためには、一大事だといふ見かけにより衝撃を与へる一方で、大丈夫だと知りながらも心配せざるを得ないやうにすることが必要だと言つてゐます。

また、をかしさといふのは、偉い人の振りをしながらも人を騙すには至らないといふところにある、とも言つてゐて、これは『いやいやながら医者にされ』などのモリエールの喜劇などを念頭に置いてゐるのだと思はれます。

最後の段落では、洒落冗談で人を笑はせる機知に言及してゐます。フランス語では、機知も精神もエスプリ esprit といふ言葉なのですが、情念は真面目さによつて恐るべきものとなるので、ふざけるのも esprit といふ美しい言葉に値するのだ、といふのがアランの意見です。


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