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第8章 物

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前の章で出てきた

物の眞とは、その形とか位置とか其他すべての物の特質を定める空間上の諸關係全體に他ならぬ。

との説を、例を挙げながら説明してゐます。話の筋は分かりやすいと思ひますので、細かな点についての注を並べておきます。

原文の章題は DE L’OBJETで、直訳すれば「客体に就いて」といふ感じでせうか。objet は「オブジェ」と日本語にもなつてゐますが、英語では object、主体 subject に対する言葉です。

最初にデモクリトスの話が出てきます。全体の論旨からすれば、アランはデモクリトスの主張を批判してゐるわけで、小林訳ではあまりその感じが出ませんが、原文では

il savait bien à quoi sa doctrine l'obligeait.

とあり、自らの説に従ふとかういふ難しい場所に立たされると分かつてゐた、と言ふところでせう。

第1段落の真ん中あたりに「一本の杖が投ずる廻つて行く影」といふ言葉が出てきますが、ノーモンと呼ばれる日時計の類を指してゐます。最後の数行は、原文が長く訳しにくい所です。意図的に小林訳とは違ふ風に訳してみたのを下にお示しします。小林訳が正面からの写真だとすれば横からの写真で、両者を組み合わせると、アランの言ひたかつたところが浮かび上がるのでは、と期待してゐます。

かうした点に気付いて貰へれば、考へるといふ不思議な力が、段々にはつきりして来る。大半の人々は、他の人達や自分自身に伝へるきちんとした話にだけこれを認めたがるのだが。魂は、最初は誰もが一人でそこにゐて、狂人は一生をそこで過ごす見かけの世界を元に、一つの共通の世界を考へるのだといふこと、それがもう見えてきた。

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