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第1章 當てどのない經驗

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第二部の題名「秩序ある經驗」で「秩序ある」と訳された言葉は méthodique、方法 méthode の形容詞です。デカルト『方法序説』の「方法」で、真実を発見したり証明するために従ふ手続き、進め方の総体を指します。第一章では、意識的ではない、言葉も持たない原初的な方法が扱はれます。「當てどのない」は errante、さまよふといふ意味です。職人、農夫、調教師といふ三種の仕事により、違ふ方法が身に付くのだ、といふ話はおもしろいので、是非ご覧ください。このMLでも何度かあつた職人についての議論を、別の角度から見るのにも役立つと思ひます。

第2段落の半ばに、「農夫は今日でも遊星や恆星を全く知らないし、眼には見えてゐても注意してもみない」とありますが、今日では、と訳すべき所でせう。以前は空の星で季節を知つてゐたのが、今では暦があるから、空を見る必要がなくなつたのです。

ゲロア島は、ブルターニュ半島の南にある Groix 島、グロアと読むのが普通でせう。ロッシェルは、大西洋岸の港町 la Rochelle、フランス料理の「哲人」坂井宏行氏の店の名前です。

細かな翻訳の問題を幾つか。第4段落の始め「區別すべき要點は三つあると思ふ。」とありますが、<主なものは三つある>といふ意味です。同じ段落の「ひようが降るとか氷が張るとか」の後ろは、 <霜が降る>です。

この章の結論を、皆さんはどう読まれますか。

かういふ臆面もなく信じられてゐる、昔のペルシャの道士にある樣な誤りこそ、職人達の明瞭な正確な仕事の爲振りより、もつとよく眞實な精神の力を示してゐると言ひたい。深淵に橋を掛けながら、凡そ人間は、そんな調子で考へるものだ、いやそんな調子で有效に考へるとさへ言ひたいくらゐだ。

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