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第1章 連帶關係

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連帯関係は solidarité の訳です。アランは、主な言葉に彼なりの定義を与へた『定義集』といふ本を書いてゐますが、その中にある solidarité の項には、かう書かれてゐます。

比喩的に理解した堅さ solidité で、我々の運命をある人の運命に結びつける。我々は疫病、洪水、火事、略奪の脅威を前にして、仲間と連帯する。我々が、それを望むと望まないとに係はらず。我々は、また、誓言によつてある人と自分を連帯させることができ、その人の不運を分かつことを誓ふ。そして、他人或いは法律により、我々の意志に反して、我々は親族関係、友情、あるいは協力関係を持つ者達と連帯させられる。連帯は常に正しく、良いものとは限らない。

この定義でアランは、本能的な連帯、意志による連帯、社会的な連帯の三つを考へてゐるやうです。また、連帯は必ずしも良いものとは限らないと述べてゐる点が注目されます。かういふ連帯についてのアランの考へ方を踏まへると、この章が理解しやすくなるのではないでせうか。

基本的な論旨は比較的明快だと思ひますが、分かり難いのは、最初の段落の

諸君は選擇をしやしない、例へば、諸君を無情な放浪者にする大きな財産を相續する身でない限りは、或は養子縁組を強ひられたり、鼻水をたらした婆さんを抱へた身でなければ。

といふ部分です。

小林訳では、財産を持つ、養子縁組を強ひられる、鼻水の婆さんを抱へるといつた状況でなければ選ぶことはない、といふ風に読んでゐるわけですが、財産を持つてゐる場合は別として、選ぶとは、かならず良くない何かが付いてくるといふことだ、と言つてゐるのだと読むこともできさうです。自信はないのですが。

最後の段落のレヴィヤタンといふのは、普通はリヴァイアサンです。旧約聖書の怪獣で、ホッブスが同盟の著書で社会に例へてゐます。アランも、社会は怪獣だと見てゐたやうです。


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