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第4章 禮拜

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アランは、文章を書き始めた頃、宗教に対して明確に否定的な態度を取つてゐました。子供の頃、悪魔や盗賊を恐れる怖がりで、また、教会にも熱心に通つてゐたやうですが、その恐れとともに宗教心も消えたと、『わが思索のあと』で言つてゐます。

しかし、これはオーギュスト・コントの影響が大きいらしいのですが、後には宗教の意義を認めるやうになりました。ただし、神を認めるといふのではなく、その現実的な効用を認めるのです。この章でも、さうしたアランの姿勢が窺へると思ひます。例へば、次の一節。

だから禮式に準じた祈りで、直ぐに慰安をもたらさぬ樣な祈りは一つもない。このどこまでも肉體的な機械的な効驗は、來世とか最後の正義とかの約束より遙かに力の強いもので、來世の約束などは寧ろ理由もわからず救はれた人達に與へる口實だと僕には思はれる。

宗教に対しては、かなり斜に構へた態度だと言へるでせうが、他方で、ドグマを

神秘説に反抗する不斷の努力

だと考へたり、教会での集まりについて

何物も破壞しない人間達の集まりを維持して行く事、それだけで既に可成麗しいものだ

と述べてゐるのは、相当高い評価だと思ひます。


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