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第4章 類推と類似

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題の原文は de l'analogie et de la ressemblance です。青銅の馬と青銅の人間との関係が類推、青銅の馬と本物の馬との関係が類似に当ります。小林訳では明確には示されてゐませんが、類似は身体がそれを感じるもので、類推は悟性に語りかけるものだといふ区別がされてゐます。両者が、ある時には截然と分けられ、ある時には渾然となる様子を、物理学の例を並べることで示さうとしてゐるのですが、私には良く分からない例もあります。

最初の例は la self-induction et la masse で、「群集と自己感應」と訳されてゐますが、<自己誘導と質量>といふ意味でせう。前者は、電気回路のコイルの性質で、流れてゐる電流を維持しようといふ、質量の持つ慣性に似た働きをします。

第一段落の半ばに、

こゝで、想像が悟性に取つて代るのを恐れて、何等かの類似を發明し勝ちだから注意しなくてはいけない。

といふ文があります。

だが、ここで何等かの類似性を発明しないやう注意しなくてはならない。想像力を悟性に置き換へる恐れがあるので。
とする方が原文の意味が分かり易いのではないで せうか。

「落下と重力との間の類推關係」といふ部分、理科を勉強した現代人には類推するまでもないものと思はれるかも知れませんが、物が落ちる原因と、例へば月と地球との間に働く万有引力が、同じ力であるといふことは、ニュートン以前には自明ではなかつたはずです。

「放熱による反動と重量の落下」といふのは、<発熱反応と重量の落下>で、いずれも高いエネルギーから低いエネルギーに移る現象です。「化學的に靜止した物體と地球上の重量」は、<化学的に不活性な物質と地面の重り>とした方が、いづれも仕事をするエネルギーを持たないといふ共通点がはつきりするでせう。

最後の方にあるマックスウェルの「小さな二つの球體の間にある一つの大きな球體」が何を指すのか、不勉強で私には分かりません。ともかく、物事の間の抽象的な関係を見抜く悟性の働きと、想像力とを混同してはならないといふのが、アランの言ひたかつた事のやうです。


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