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第6章 音樂

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アランは音楽が好きで、自らピアノを弾いてゐました。ベートーベンのバイオリンソナタについて書いた『音楽家訪問』といふ著作もあります。

最初の段落では、人々が一緒に動く際に必要な合図など、音楽の要素となる日常の活動について述べてゐます。合図には二つの音が必要で、先の音が後の音を予告し、力を入れたり緩めたりするリズムがある、といつた分析は、アランが得意とするところです。

なほ、小林訳でも、中村雄二郎さんの訳でも、二つの音といふのが「一つは相手に呼び掛ける音、一つは緊張と休息とを規則立てるリズムだ」と解されてゐますが、上のやうに読むのが良いのではないでせうか。

第二段落では、人の声について述べ、人の声の高低や強弱が、烈しい感動と安心や沈着、情念と意志や忠告を表現すると言つてゐます。後半では、休んだ筋肉は働き、最後には全てが休むといふ規則から、音楽の終はり方には一つの型ができてゐるとの指摘がなされます。器楽では、かうした筋肉の法則は成り立ちませんが、人間の耳は、同じ事を求めると言ふのです。

第三段落では、音楽の声は、疲れず出し続けるために、純粋な音になること、小さな努力で大きな音を出すために、和音が生まれることなどが指摘されます。

最後の段落では、音楽が「絶間ない喚起と治癒」により大きな喜びを与へると言つてゐます。この段落は、言はば密度が高くて、読みにくいところが多いのですが、後半では、即興演奏と、より永続的な作品とが対比されてゐるやうです。「音樂が最早手段に過ぎなくなる樣な思索に依つて」、緩急や「壯烈なもの嚴肅なものと氣輕なもの」の組合せを正常なものに連れ戻す、といふ永続的な作品についての記述は、ベートーベンの作品を念頭に置いて書かれてゐるやうに感じられます。


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