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第8章 狂信

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アランは、第七部で儀式の話をして来たわけですが、この章では 儀式の持つ負の側面に触れてゐます。

儀式のないところに狂信もない。

逆に言へば、儀式は狂信の元にもなるといふ主張です。 儀式は秩序をもたらすが、秩序を保たうとする努力が狂信へとつ ながるといふのです。

この章の論の進め方は、分かりにくい部分もあるのですが、前の 二段落では集団の狂信を、後半の二段落は個人の狂信について述 べてゐるやうです。 第三段落の途中に、やや唐突な感じで「愛する女を殺す」といふ 話が出てきます。そこから最後まで、犯罪へと至る人間の心理を 分析してゐるのだと、私は読みました。

女を殺すのに、はつきりとした理由があるわけではなく、憎悪が 羞恥心や恐怖心と結びつき、なまじこれを抑へようとして、ます ます情念の虜になる、といふのがアランの診断だと思はれます。

いつものやうに細かくなりますが、翻訳について気付いた点を付 記します。まづ、第二段落の

逃げるのが群衆ならばしつかりし た人でもじつとしては居られない、動機は明らかに生理的なものだ

といふ部分。ここは、大勢の人間に押されてはじつと立つて はゐられないといふことを述べてゐるので、 <明白な物理的理由により>と訳した方が良いと思ひます。

同じ段落の後半、

人々がさういふ自分の武器を捨てて了ふ、例 へ用心からでも捨てて了へば秩序の大きなわざはひだ。

といふ部分は、よく分からないのですが、<用心といふ武器さへ も捨てて仕舞ふ>とも読めるやうな気がします。

なほ、原文では、最初の段落の二行分が、小さな段落として独立 してをり、全体では五つの段落になつてゐます。


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