この章でアランは、正義と力との関係を考へてゐます。そして、正義を実現するのは力ではなく、自由な判断だといふ主張を展開します。反抗する場合でも、権利を裏付けるのは力ではなく、論証と証拠の力なのだから、真の反抗は
追放されようが投獄されようが、死を求められようが、自分の意識の命ずる處に從つて語り或は書く事にある
と言ふのです。
アランのかうした主張は、第一次世界大戦の悲惨な経験と相まつて、両大戦間の時期におけるフランスの反戦思想に力を与へ、結果的にはヒットラーへの妥協的な政策につながつたと批判されることもあります。政治の難しさを痛感します。
しかし、最近の進化論の議論でも、人類の発展には信頼といふ要素が欠かせなかつたとの主張が力を持つて来てゐるやうです。例へば、エコノミスト誌に掲載された記事は、なかなか興味深いもので、無料では読めない部分も、機会があれば一読をお勧めします。
小林秀雄がこの文章を訳しながら、何を考へたかは分かりませんが、間もなく、小林秀雄自身も、戦争といふものについて考へ、係はつて行くことになるのです。
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